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『色なしめがね 最終話 禁断 』




散会後、健二はタクシーをひらい、恵子の待つバーに向かっていた。




バーのカウンターでは恵子が一人寂しげにカクテルグラスを傾けていた。




健二は店に入ると無言で、恵子の隣に座った。




『めがね替えたの?』無感情に恵子が言った。




しかし、健二は恵子の言葉がまるで聞こえなかったかのように




『出よう』と言って、恵子の手首をつかみ、
半ば無理やりに店をあとにした。




そして店を出たあと
、無言で歩きつづけた健二が突然、足を止め、不意にこう訊いた。




『俺のこと、どう思ってる?』




『優柔不断で、大嫌い!愛想ついたわ!』





恵子の言葉とは裏腹に、健二のめがねに浮かび上がってきたのは、




『あなたを誰よりも愛しているわ!』




という恵子の本心だった。







健二は何も言わずに恵子の体を引き寄せ、強く彼女を抱きしめた。




そのまま、ふたりは身を固くしていたが、
おもむろに健二は口を開き、短くこう言った。




『結婚しよう』




恵子の目からひとしずくの涙がこぼれ落ちていった。

 







不思議なめがねに出会い、
今日一日でやる気を取り戻した健二は自宅に帰り、
洗面所の鏡の前で一人つぶやいた。





『よし、明日からは人を信じてがんばるぞ!』





彼は老婆の忠告を破り、




<色なしめがね>をかけたまま、鏡の中の自分を凝視してしまった。






すると健二のめがねは色が薄れてきて、




『うそつけ!』



という文字がくっきりと表れた。




愕然とする健二の足元には、破れた紙が落ちていた。




その紙にはこう書かれていた。












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